婚前特急
自分の姿はどれ程認識出来ているでしょうか。
婚前特急の主人公、池下チエは5人の男と付き合い、それらの男達に愛されている"充実した人生を送る自分"に満足していました。
しかし世界の容赦ない干渉、この場合は友人の結婚という出来事から"持っていない自分"の姿が浮き彫りになってきます。
チエは恐れ戦き、ますます身を硬くしていきます。
この映画で面白かったのが、主人公のチエは弱い自分を認められずに起こす行動がことごとく裏目に出て、ますます脆弱な自分の姿を突きつけられていくのですが、そうして自分の姿を捕らえていくうちに自分を愛していた筈の男達の自分に対する姿勢や欠落している何かまで見えてくる、という点です。
チエは一貫して男達を俯瞰した視点で観察していますが、遠回りして自分自身の姿を見つめた事で男達の姿をより明確な輪郭を持って捉える事が出来たわけです。
一方で僕はというと、意識のベクトルはどちらかというと自分に向いている様に思います。
にも関わらず自分自身の姿が見えなくなってオロオロと戸惑う事がしょっちゅうあります。
そんな時ぼんやりと薄まり頼りなくなった輪郭を取り戻してくれる鏡となるのはのはやはり自分以外の誰かなのです。
見たい物が見えなくなった時、深呼吸して別の視点からそのものを映している鏡がないか、探してみるのもいいのかもしれません。
ただいまラボ
ジャケ買いです。
カバーデザインを手がける佐伯佳美さんという方の絵が好きで佐伯さんのカバーをみるとつい手に取ってしまいます。
佐伯佳美さんを知らない方でもこの表紙は興味を惹かれるのではないでしょうか。
動物がいっぱいの扉の物語は大学の獣医学部が舞台のオムニバスです。
といっても、犬や猫の患者さんを治療する僕たちが思い浮かべる“動物のお医者さん”の物語ではなく分子生物学研究室、通称ブンセイで学ぶ学生の物語です。
5つの短編で描かれるのは可愛らしい表紙とは打って変わって進み方を忘れて立ち止まる5人の大学生。
ー高校生のとき、ずっと飼っていた犬が死んだ。動物のお医者さんになりたいと思って獣医学科に入学した。(中略)しかし獣医学を学び、いろんな話を聞くうちに、その未来が曖昧になっていった。ー(シカミミ!)
知識や経験が増えるほどかえって自分が何がしたかったのか分からなくなってしまう。
そんな時、僕は何か指針が欲しくて自分の気持ちを決めつけようとしてしまったり誰かにもらった答えに安心感を得たくなってしまいます。
思っていたより単調、思っていたようなことは出来ない。そんな風に思って立ち止まっていると不意にものすごい力で自分のいる世界を見せつけられることがあります。
ー私たちが勉強不足だったせいで、あの犬は命を落としてしまったんだ。なんの力にもなれなかった。ー
ー固く目を閉じて横たわったビーグル犬の姿が、まぶたの裏でちらつく。あの光景はそうそう忘れられないだろう。ー
(ブンセイ!)
僕の単調だと思っていた、なんでもないと思っていた仕事はホンモノの命や誰かの生活に繋がっていたのだ…
その事に気付いた時の恐ろしさに追われて前に進んでいるような気がします。
格好良くてなんでもできる大人になりたいと24歳の今でもちょっと本気で思っていますが、ままならないものですね。
陽炎ノ辻 居眠り磐音江戸双紙
こんにちは! りょうです!
千葉県の病院で理学療法士として働いています。
こちらでは、本や映画など僕の触れたものを紹介したり感想を綴っていこうかと思います。
本日読んだ本はこちらです。
どん
久しぶりに読みました。時代小説。
今から10年近く前、中学生高校生くらいの頃には時代小説が好きで藤沢周平や山本周五郎をよく読んでいたのですが近頃はあまり読んでいなかったのでなんだか懐かしい気分にもなりながら一気に読みました。
この本を読むきっかけとなったのは患者が貸してくれたからです。
なにせ時代小説が久しぶりだったもので読み始めるのに少し時間がかかってしまったのですが読み始めたらすぐに引き込まれて一気に読めました。
Iさんありがとう!そして長らくお借りして申し訳ありませんでした…!
設定としてはなんやかんやあって脱藩した主人公の坂崎磐音(さかざきいわね)(変な名前…)が江戸で浪人暮らしをしているうちに事件に巻き込まれていくという、よくある設定です。
ただこの主人公の磐音がまあ現代的なおっとりタイプの男子なんですよね。
まーー何があっても動じない。ニコニコとしていてのほほんとした態度を崩さない。
正直憧れます。
そこそこ重たい過去を引きずって脱藩してるんですけどね…
ちなみにご飯を食べている時はご飯に夢中で返事をしなくなります。可愛いなおい。
剣術はめちゃくちゃ強いです。お約束です。無敵です。
ただいつも思うんですけど匕首(所謂ドス。チンピラ武器は大体これ)の相手に日本刀って剣術云々の前にズルいんじゃないですかね?
大体勝つでしょ。
物語の軸となる事件も実際に田沼意次が行った貨幣政策から発展するもので、着地するのかな…と不安だったのですがしっかりと筋が通っていたものでした。
ただ藤沢周平に慣れ親しんだ僕としてはもう少し焼き魚やら大根の煮物やら食欲をそそる表現があると嬉しかったです。
食いしん坊キャラなんだしさ…
ちなみにこれを借りたときちょうど北陸新幹線が開通して間もなくの時期だったので、百貫俊夫の“兼六園の四季”という絵がブックカバーになっていました。
これは夏
春夏秋冬の四部作らしいので是非見かけたらチェックしてみてください。
それでは、また素敵なものがあったら紹介させて頂きたいと思います。
それでは!